素直な響きのメゾソプラノを体現した声 Hanna Schaer

Hanna Schaer(ハンナ シェーア)は1944年 スイス生まれのメゾソプラノ歌手。
オペラよりはコンサート歌手、リート歌手として真価を発揮する人で、
特にAndré Caplet (アンドレ カプレ)の歌曲演奏が一番有名かもしれない・・・。
という、実力の割には知名度が低い歌手なので、ここで紹介したいと思います。

 

 

カプレ 歌曲集古びた化粧小箱(Le vieux coffret)

 

 

1. Songe(夢)

 

<歌詞>

Je voudrais t’emporter dans un monde nouveau
Parmi d’autres maisons et d’autres paysages
Et là,baisant tes mains,contemplant ton visage,
T’enseigner un amour délicieux et nouveau,

Un amour de silence,d’art et de paix profonde:
Notre vie serait lente et pleine de pensées,
Puis,par hasard,nos mains un instant rapprochées
Inclineraient nos cœurs aux caresses profondes,

Et les jours passeraient,aussi beaux que des songes,
Dans la demi clarté d’une soirée d’automne,
Et nous diront tout bas,car le bonheur étonne:
Les jours d’amour sont doux quand la vie est un songe.

 

 

<対訳>

私はあなたを運んで行きたい 新しい世界に
他の家々や他の風景の中から
そしてそこであなたの手にくちづけ あなたの顔を見つめたい
あなたに教えたい 素敵な新しい恋を

沈黙の愛 芸術と深遠な平安:
私たちの人生はゆっくりとして 思考に満ちている
それから偶然に 私たちの手が一瞬近づき合って
深い愛撫に私たちの心を寄せ合う

そして日々は過ぎ去る まるで夢のように美しく
秋の夕暮れのたそがれの光の中で
私たちはそっとささやく 幸福は驚きだと
愛の日々は甘美なのだ 人生が夢であるとき

 

 

 

 

 

2. Berceuse(子守歌)

 

<歌詞>

Viens vers moi quand tu chantes,amie,j’ai des secrets
Que tu liras toi-même au reflet de mes yeux.
Viens,entoure mon cou de tes bras,viens tous près
Et ton cœur entendra des mots silencieux.

Viens vers moi quand tu rêves,amie,j’ai des paroles
Dont le murmure seul est comme une douceur.
Elles imposent l’oubli,le doute,elles désolent,
Et pourtant leur musique enchante la douceur.

Viens vers moi quand tu ris,amie,j’ai des regards
Très longs qui vont porter la peur au fond de l’âme.
Viens,ils transperceront ton cœur de part en part
Et tu sentiras naître en toi une autre femme.

Viens vers moi quand tu pleures,amie,j’ai des caresses
Qui captent les sanglots amers au bord des lèvres
Et feront de ton amertume une allégresse:
Amie,viens boire une âme nouvelle sur mes lèvres.

 

 

<対訳>

来て 私のもとに あなたが歌う時 愛しい人 私には秘密があります
あなた自身で読み取るの、私の目の輝きを
来て その腕で肩を抱いて 抱き寄せて
そうすればあなたの心は沈黙の言葉を聞くことでしょう

来て 私のもとに あなたが夢見る時 愛しい人 私は言葉を紡ぎます
それはただささやくだけ 優しさのように
それは忘却 疑いを課し それは悲しむ
そしてそれでもその調べは 甘美さを魅了するのです

来て 私のもとに あなたが微笑む時 愛しい人 私のまなざしは
とても長いこと 魂の底に恐怖をもたらしてきました
さあ それはあなたの心を突き抜ける 深く 深く
そしてあなたは感じるでしょう あなたの中に別の女が生まれるのを

来て 私のもとに あなたが泣く時 愛しい人 私の愛撫は
それは苦い涙を唇の縁に留めるでしょう
そしてあなたの苦しみを喜びに変えるのです
愛しい人 飲みに来て 新しい魂を私の唇から

 

 

 

 

 


3. In una selva oscura(ある位森で)

 

<歌詞>

La lumière est plus pur et les fleurs sont plus douces,
Le vent qui passe apporte des roses lointaines,
Les pavés sous nos pieds deviennent de la mousse,
Nous aspiront l’odeur des herbes et des fontaines.

Un printemps nous enveloppe de son sourire,
Entre nous et le bruit un rideau de verdure
Tremble et chatoie,nous protège et soupire,
Cependant que notre âme s’exalte et se rassure.

O vie! Fais que ce léger rideau de verdure
Devienne une forêt impénétrable aux hommes
Où nos cœurs,enfermés dans sa fraicheur obscure,
Soient oubliés du monde,sans plus penser au monde!

 

 

<対訳>

光は一層清らかで 花たちは一層美しい
吹き過ぎる風が遠くのバラの香りを運んでくる
足元の敷石は苔に覆われ
私たちは嗅ぐ 草や泉の香りを

春は私たちをその笑顔で包み
私たちとざわめきの間に緑のカーテンを
揺らめかせ ちらつかせる 私たちを守りため息つく
けれど私たちの魂は 誇らしげに自信にあふれている

おお人生よ!この軽やかな緑のカーテンを
森へと変えてくれ 人が通り抜けられないような
そこでは私たちの心は その暗い新鮮さに捕えられて
世界に忘れられ そしてもはや世界を考えなくなるように!

 

 

 

 

 

Forêt(森)

 

<歌詞>

O Forêt,toi qui vis passer bien des amants
Le long de tes sentiers,sous tes profonds feuillages,
Confidentes des jeux,des cris et des serments,
Témoin à qui les âmes avouaient leurs orages.

O Forêt,souviens-toi de ceux qui sont venus
Un jour d’été fouler tes mousses et tes herbes,
Car ils ont trouvé là des baisers ingénus
Couleur de feuilles,couleur d’écorces,couleur de rêves.

O Forêt,tu fus bonne,en laissant le désir
Fleurir,ardente fleur,au sein de ta verdure.
L’ombre devint plus fraîche: un frisson de plaisir
Enchanta les deux cœurs et toute la nature.

O Forêt,souviens-toi de ceux qui sont venus
Un jour d’été fouler tes herbes solitaires
Et contempler,distraits,tes arbres ingénus
Et le pâle océan de tes vertes fougères.

<対訳>

おお森よ 恋人たちが通り過ぎるのを見てきたお前
お前の小道に沿って お前の繁った葉の下を
戯れや 叫びや 誓いの秘め事を
目撃してきたのだ その魂を燃え立たせた者たちを

おお森よ ここに来た者たちを思い出せ
ある夏の日にお前の苔や草の上を歩いた者たちを
彼らはそこで飾り気のないキスを見つけたのだから
木の葉の色を 幹の色を 夢の色を

おお森よ お前は親切だった 欲望を受け入れ
咲かせたのだ 情熱の花をお前の緑の懐に
影は一層冷たくなった:歓びの戦慄が
魅惑したのだ 二つの心と自然のすべてを

おお森よ ここに来た者たちを思い出せ
ある夏の日にお前の草の上を孤独に踏みしめ
そして見つめていた者を 夢見心地でお前の素朴な木々を
そしてお前の緑のシダの淡い色をした海を

カプレの歌曲はマイナーで、私も生では一度も効いたことがないのですが、
対訳はあったのでココから転載させて頂いて転載させていただきました。
ドビュッシーの友人とのことですが、カプレはもっと和音が薄く、より静寂に満ちていて、
歌もドビュッシーに比べると高音域を使う頻度は少ないので、歌って栄えるわけではなく、
ピアノと歌の双方に上手い演奏者が揃って初めて素晴らしさが分かる歌曲かもしれません。
シェーアはメゾソプラノですが、この演奏を聴く限りではソプラノと言われても違和感がないくらい、
低声歌手らしい太い声は使わず、高音でも全く無理なく自然な響きです。
こんな素直な響きで、深さはありながらもソプラノのような軽さで歌える人は中々いません。
そして、私がこの人の演奏で何より素晴らしいと思うのは表現で、
ディナーミク事態は、圧倒的な美しさで、響きだけを残すようなピアニッシモがある訳ではなく、
むしろ、高音は大体かなりのボリュームで歌っているのです。
それにも関わらず、全く不自然さがなく、
高音をピアノで歌う技術がないようにも聴こえない。
これが言葉の表現力、歌というより語りに近い演奏をしているからで、
オペラ歌手らしい強い共鳴を捨てて、より喋り声に寄せた、
それでいて声楽的な声で歌えていることが大きいでしょう。
芸術よく私は不要なヴィブラートについて否定的な意見を書きますが、
立派な響きがあればあるほど素晴らしい演奏になる訳ではなく、
曲によっては、無駄な響きをそぎ落とすことが求められることもある。
ということがこの演奏でもよくわかるのではないかと思います。
マーラー Frühlingsmorgen

オッターと比較しても響きの安定感はシェーアの方が上かもしれません。

Anne Sofie von Otter

<歌詞>

Es klopft an das Fenster der Lindenbaum.
Mit Zweigen blütenbehangen:
Steh’ auf! Steh’ auf!
Was liegst du im Traum?
Die Sonn’ ist aufgegangen!
Steh’ auf! Steh’ auf!

Die Lerche ist wach,die Büsche weh’n!
Die Bienen summen und Käfer!
Steh’ auf! Steh’ auf!
Und dein munteres Lieb’ hab ich auch schon geseh’n.
Steh’ auf,Langschläfer!
Langschläfer,steh’ auf!
Steh’ auf! Steh’ auf!

<対訳>

窓を叩く菩提樹、
花をぶら下げた枝で、
起きて! 起きて!
何を夢見ているの?
お日さまは昇っているよ!
起きて! 起きて!

ヒバリは目覚め、茂みも風にそよいでいる!
ミツバチも甲虫達も羽音を立てている!
起きて! 起きて!
あなたの陽気な恋人にだって、既にわたしは見かけたわ!
起きて、お寝坊さん!
お寝坊さん、起きて!
起きて! 起きて!

 

こういう歌手の良さを伝えるためには、歌詞がわからないとと中々難しいので、今回は全ての曲に歌詞と対訳を載せました。
シェーアのマーラーの演奏も、ピアノと歌のバランスは綿密に計算されているのでしょうか、実に自然な流れで表現に違和感が全くありません。
「Und dein munteres Lieb’ 」からテンポを速くしていますが、
楽譜は「a tempo」なので本来はここまで速くはしません。
楽譜通り演奏するならば間違えということになりますが、シェーアの演奏は、気まぐれでも、最後テンポを速くした方が盛り上がるから、とかいう理由でもなく、動機付けがはっきりしているからこそ違和感が全くないのでしょう。
作曲者の意図をとことん突き詰めるのも良いですが、結局何で作曲者がそう書いたのかは想像する以外ない場合も多々ありますから、私個人としてこのような演奏は大いに支持します。
素人臭い意見ですが、つまらない演奏というのが一番音楽やってて罪深いと思うからです。
とは言っても、シェーアのような、
全く派手さがなく、聴いた感じで凄い技術があるようには思えず、
圧倒的な声がある訳でもない、まして有名な作品の録音もないときているので、このような歌手が忘れ去られないよう発掘するのは結構難しいです。
マーラーなんてYOUTUBEで2018/7/28に公開されたのに、再生回数が2回でしたからね(爆)
これ以上過小評価されてる歌手もそういないのではないでしょうか?
CD

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